カテゴリ「健康長寿社会」 ポスト「京」重点課題2 個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学
 

課題代表者メッセージ

課題責任者
東京大学医科学研究所
宮野 悟

病気は、臓器群の変調という現象として現れますが、その背景には生命の設計図とも呼ばれるゲノムがあり、オミクスとよばれるエピゲノム・RNA・タンパク質など多彩な分子が細胞を制御・構成しています。また、細胞には環境や加齢により長い時間をかけて変化していく個々人で異なる細胞コンテクストがあり、そのもとで機能している臓器の状態も多様です。さらに、一生変わらないとされていたゲノムも、造血幹細胞には加齢とともにゲノム変異が着実に蓄積していっていることが報告されています。

一方、ゲノムシーケンス技術の革新は、エピゲノム・RNAデータを含め、既にペタバイト単位の量のデータを生み出しています。画像や生理データなどを含む高精度臨床データも大規模に蓄積されています。2006年に始まったグランドチャレンジプログラム、続く戦略分野プログラムでは、「京」をフルに動かせる心臓シミュレータUT-Heartを初めとする世界最高レベルのシミュレーション技術を開発しました。また全遺伝子やノンコーディングRNAを対象とした大規模生命データ解析技術の開発により、「京」を使って初めて可能になったがん生物学上の発見や予測法の開発などがありました。しかし、UT-Heartによるマルチスケールシミュレーションは極めて画期的成果ですが、ほぼ全「京」を用いて17時間の連続稼働が必要でした。がん研究では、「個々人のがん」を捉えるには全ゲノム解析に基づき、1%以下の頻度の変異を網羅的に見いだすことが必須であり、「京」では5000日を要してしまいます。ヒトの多様性がさまざまな観点から明らかになる中、大規模な画像や生理データ、さらには健康情報やゲノム情報と個々人の病態の分子メカニズムとの乖離を埋める技術が不可欠となっています。

これら心臓シミュレーションとがんだけについても、我が国をとりまく人類が挑戦しなければならない極めて重要な科学的・医学的課題の前には、「京」のパワーを超えること、そしてそれを活用する技術を開発するという大きな壁が立ちはだかっています。そしてこれらの病態の統合的理解は、人智・手技をはるかに超えた複雑さを有していることが次第に明らかになってきています。ポスト「京」(スーパーコンピュータ「富岳」)が必要とされる所以といえるでしょう。

重点課題2では、環境・生体時空間的にゲノムから全身を捉え、がん・循環器系・神経系など、全身の疾患に対して、その病態の理解と効果的な治療の探索法の研究を行い、ポスト「京」(スーパーコンピュータ「富岳」)によって初めて実現できるその成果を個別化・予防医療へ返す支援基盤となる統合計算生命科学を確立することを目的としています。

超高齢社会が迫る中、本課題の成果が、健康寿命の社会を支える基礎となり、加齢などとともに生じるさまざまな病気に対して、統合計算生命科学という新たなパラダイムが国民の健康に資することは大きな社会的意義があると考えています。

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