病気は、臓器群の変調という現象として現れますが、その背景には生命の設計図とも呼ばれるゲノムがあり、オミクスとよばれるエピゲノム、RNA、タンパク質など多彩な分子が細胞を制御・構成しています。
また、細胞には環境や加齢により長い時間をかけて変化していく個々人で異なる細胞コンテクストがあり、そのもとで構成されている臓器の状態も多様です。
さらに、その繋がりは人智を超えた複雑さを有しています。
その理解には、画像や生理データなどを含む高精度臨床データとともに環境・生体時空間的にゲノムから全身を捉える必要があります。
現在、ゲノム解析技術の劇的な革新と高精度計測機器の急速な発展は、健康・医療ビッグデータを生みだそうとしており、この傾向は急激に加速しています。
こうした背景のもと、本研究の目的は、ポスト「京」(スーパーコンピュータ「富岳」)によって初めて実現できる「情報の技術」と「物理の原理」の融合により、がんをはじめとして全脳・循環・代謝系など、全身の疾患に対して、ビッグデータを活用し、高度の生体階層統合シミュレーションに個体データを同化させる技術、並びに、ライフサイエンスにおいてかつてない大規模なデータ解析技術を開発・応用することにより、また、大規模データに基づくアプローチと並行して、分子細胞レベルの研究と臓器個体レベルの研究を融合させ、ミクロとマクロのメカニクスとを関連させて定量的とらえたシミュレーションモデルを構築することにより、病態の理解と効果的な治療法の探索を行い、その成果を個別化・予防医療へ返す基盤となる統合計算生命科学を確立することを目的とします。