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研究開発読本

生体データとシミュレーションで脳の神秘に迫る

生命を維持する機能においてとても重要である血液循環系と高齢化社会におけるQOL(Quality of Life: 生活の質)の維持に欠かせない身体運動機能を担う神経-筋骨格系、声や音を出す機能を担う口腔系に対し、患者一人ひとりの生体情報と物理の原理に基づいた生体シミュレータを開発しています。

※こちらはサブ課題Bの研究開発読本のページです。【サブ課題A・サブ課題B・サブ課題C

 全脳循環代謝シミュレータ開発 

心臓から送り出された血液(動脈血)は、血管を通って脳に入り、脳内を循環しエネルギーを与えた後、静脈血として心臓に戻ります。その間、約20秒。この20秒の科学的解明は脳血流研究の中心です。
そこで、私たちは世界でまだ実現されていない全脳レベルの循環代謝シミュレータの開発に向けて、大規模計算やデータ同化手法の開発をしています。

簡単に言い換えると、脳全体での血管の形を調べて脳内を巡るすべての血管をコンピュータ上に再現しようとしています。血管造影剤を注入した時の画像を使って、動脈と静脈が別々にわかる上に直径1mmの血管まで分かるようになりました。また、二光子顕微鏡という特殊な装置で得られた画像を元に、毛細血管の血流がよくわかる血管モデルを作ろうとしています。
これら画像等の計測データに力学現象の解析が可能な物理シミュレーションを合わせた全脳循環代謝シミュレータを活用することにより、脳血管障害の診断や治療に役立てられることが期待されています。

さらに、コイルやステントといった治療のための器具を血管の中に置いた場合、脳の中に血栓ができますが、ヒトの体の反応や血流の相互関係をを十分に考えた大規模なスパコン計算により、どのようにして瘤内で血が固まるのか、その時間的変化はどうなるのかを明らかにするために血栓予測シミュレータの開発を行っています。

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 データ同化シミュレータ開発 

PC-MRI という方法で得られたデータを使って、患者さん一人ひとりの血流を解析するための手法を構築しました。この手法を用いた数値テストから妥当性の検証を行い、また今までに開発してきたシミュレータZZ-EFSI-K に組み込んで、実際の患者の脳動脈形状とPC-MRI 計測データをつかった解析に取り組んでいます。

データ同化 迅速かつ個々人に合った高度な治療のためには膨大な診断データを物理モデルに基づいて理解することが求められます。そのために数値シミュレーションに実測データを取り入れる手法がデータ同化です。

 階層統合循環シミュレータ開発 

シミュレーションを血栓症の治療・予防・薬効評価などへ応用することを目的として、血栓形成の初期段階に起きている血小板が粘着する過程や活性化する過程を再現する研究を行っています。今まで開発してきたEX-THROMを基にして、さらに進化した計算プログラムの開発を行っています。

EX-THROM 血栓シミュレーションのソフトウェア。血小板表面のGP1baと血管壁およぶ血漿中のフォンウィルブランド因子(vWF)との相互作用を分子レベルの結合を考慮した計算で再現し、その後の血小板の活性化から凝固に向かう複雑な生化学反応を再現します。

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 神経系・筋骨格系統合シミュレータ開発 

脊髄の運動神経からの電気信号をもとに、筋線維1本1本の収縮挙動を計算し、3次元骨格筋モデルの収縮と筋骨格系の運動を再現するシミュレータの開発を行っています。現在は特に、足関節筋のマルチスケールモデルの開発を行っており、歩くことが困難な人のために安定した二足歩行運動のメカニズムの解明に取り組んでいます。

歩行や立位姿勢を安定させる神経・筋・骨格系の統合的なしくみの解明は、日常生活での動きのみならず、二足直立姿勢に至る進化の過程、神経疾患や筋疾患、怪我や外傷による運動障害(姿勢・起立障害)が起こるしくみの解明、またそれらの診断や治療法の開発に直結します。さらに、加齢に伴う転倒リスク増大のしくみ解明とその回避方策、リハビリテーション手法の開発にも重要な役割を果たすことが期待できます。

脳の指令対象である筋・骨格系のモデルシミュレータをプラットフォームとして実現することは、脳の機能を計算論的に解明する計算論的脳科学の進展を支えます。またそうした詳細に踏み込まない現象論的システム制御モデルとポスト「京」のプラットフォームを接続して利用することで、臨床医学や理学療法を定量化するのに有用な様々な情報を提供することが可能になります。

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 口腔内流体音響シミュレータ開発 

発音障害のある人のために、数千例の歯科診療情報を利用して治療後どういう発音になるか予測しようとしています。第一段階として、発音障害のうち構音障害に分類される症状についてたくさんデータを集めながらFrontFlow/violet Cartesian というプログラムをスパコン「京」で使えるように少しづつ改良して、空気がどこを流れてどのような声が出るのか理解できるように取り組んでいます。

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